近鉄の主要線区(奈良、大阪、名古屋、南大阪)では、1955年の奈良線800系を皮切りに、各線にWNドライブの電車が投入されてゆきます(試作要素の強い1450系は除く)。その中で名古屋線だけは、若干遅れて1959年12月の伊勢湾台風復旧および改軌完了時に投入された1600系が第一陣となりました。これは改軌計画があったため新しい駆動方式の車両投入をためらっていたというのが実情でしょうか。

・近畿日本鉄道名古屋線 モ1612 1993年3月 近鉄富田
近鉄の戦後の電車は、1957年に登場の大阪線1460形で20m車体に屋根肩のRが大きい断面を持つスタイルが確立されますが、この車両は、スイス譲りの一段下降窓ではあるものの3扉車でした。しかし、同年に登場した南大阪線6800系(ラビットカー)では4扉車となり、以降はこちらが標準となります。
従って名古屋線の1600系も20m車体・4扉で登場しました。なお、名古屋線は1956年の四日市付近の急カーブ解消で、20m車の運用が可能となっていました。
主電動機は近鉄の各車に搭載された三菱のMB-3020系ですが、その中でもこの車両は10100系(ビスタII世)と同じMB-3020D(端子電圧340V・125kw)です。また制御器は日立製のVMC-HTB10-Cで、バーニヤ制御を日本国内ではじめて本格採用しました。ブレーキは発電制動付き電磁直通制動(HSC-D)です。
さて、1600系は登場時は、制御電動車のモ1600形と制御車のク1600形の2連で、電動車が奇数・制御車が偶数となっていました(モ1601~ク1618の9編成18両)。しかし、1963年度の増備車は末尾が編成単位で揃い、編成は2連の他に制御電動車をもう1両加えた3連が登場します。制御車はク1700形に形式変更(1710~1715)、制御電動車はモ1610~1615とモ1651~1655でした。これに合わせて、従来の車両も改番が実施されモ1601~1609(順不同)と、ク1701~1709となります。
最終的には1966年までにモ1601~1615、モ1651~1659、ク1701~1715、ク1751~1752(貫通路が狭幅)の41両および大阪線ク1581~1583を編入した1781~1783の3両が揃います。
その後、1973年にク1781~1783は付随車のサ1781~1783に改造。モ1601~1603は中間電動車に改造されました。
さらにモ1651~1654は増結用として京都線に転出し、のちに電動貨車等に転用されています。
冷房改造は名古屋線残留の1963年度製以降の車両にのみ1982年以降に実施され、方向幕もこの頃に取り付けられています。
その後、10両が養老線に転用され600系の一部となったほかは、1997年までに廃車されています。
・参考文献
藤井信夫「私鉄車両めぐり[119] 近畿日本鉄道」鉄道ピクトリアル398号(1981年12月増) 電気車研究会
三好好三『近鉄電車』JTBパブリッシング 2016年