
京阪神の近郊は山が近く、また歴史的な寺社が多いことから、それに向けた参詣路線やケーブルカーがいろいろとあります。その一つが、奈良県にある信貴山朝護孫子寺へ向かう近鉄信貴線。今回は、その終点であり西信貴鋼索線に乗り換える信貴山口駅を取り上げたいと思います。



近鉄大阪線の河内山本駅で分岐してわずか2駅。この間にも40‰勾配が存在するなどして、なるべく高度を稼いだところにあります。ケーブルカーとの乗換駅ですので、当然片側は全て斜面。駅のホームは2両編成がなんとか止まれる長さしかありません。信貴線のホームは1面2線で、ホーム全体が木骨の大屋根で覆われています。

最も、当初は駅の東側にもう1線があったようで、そのあとが残っています。1960年代の航空写真を見る限り、既に撤去済みであるようですが、いつごろまで存在していたのかはわかりません。その更に反対側には広告看板のステーがありますが、ここに何もないのは、このご時世ではどこでも同じこと。

駅舎そのものは比較的新しいこじんまりとしたもの。周囲は住宅地が広がっているとはいえ、駅の立地からして利用者は限られているものと推測されます。



信貴線のホームと凡そ直角の位置に、駅舎から見ればそのままストレートにケーブルカーの西信貴鋼索線のりばがあります。同じ会社なので当然改札は無し・・・ですが、意外とこういう形態のところは少ないですね。中間改札があったり、改札外を10分以上歩くなどはザラですから。ホームは2面あり乗降分離できる構造になっていますが、普段は片側しか使っていません。
この駅は、1930年に信貴山への参拝ルートとして開業したもの。信貴線は近鉄の前身である大阪電気軌道(大軌)による運行でしたが、ケーブルカーは傍系の信貴山急行電鉄による運行でした。ただし、このケーブルカーで登った先にあるのは高安山。そこから山上を信貴山までバスで移動することが必要です・・・これが戦前には電車であったことは、それなりに知られた話なので、今回は割愛。
信貴山は仁王門や門前町の位置関係から解るように、その東にある王寺側から参詣するのがメジャーなルートだったようです。こちらには信貴生駒電鉄(現在の近鉄生駒線)および同社運営のケーブルカー(後の近鉄東信貴鋼索線)が存在していました。それを、大阪からアクセスしやすいこのルートを開業することで、人の流れを一変させたわけです。
レジャーが多様化し、またモータリゼーションが進んだ現在では、寺社参詣は初詣を除けばそれほど集客力がある事業ではないのだと思います。それでも、このケーブルカーと山上のバスを40分間隔で走らせているところに、近鉄の朝護孫子寺に対する義理の硬さのようなものを感じるところです。
・いずれも2019年9月 撮影。