
かつて台湾はナローゲージの産業鉄道の宝庫で、製糖、製塩、鉱山そして林業それぞれの鉄道が各地にありました。
このうち林業(森林鉄道)については、現在も走り続ける阿里山森林鉄道が有名ですが、他にも東海岸の羅東から延びる太平山森林鉄道も規模が大きいものでした。太平山森林鉄道は高低差が大きいため、複数の鉄道を索道で中継する方式がとられていました。このうち、一番低い場所の区間が今回紹介する羅東森林鉄道です。
羅東森林鉄道は羅東駅を起点に蘭陽渓を遡り土場駅までの36.6kmの路線です。そのルーツは日本時代にまで遡り、発電所の建設により筏による運搬ができなくなったために建設され1924年に全線が開通しました。といっても、山間部(天送埤~土場)はその発電所(台湾電気興業)の資材運搬用の路線を転用したもの。続く平野部の天送埤~歪仔歪は台南製糖の製糖鉄道を借用したもので、最初から森林鉄道として建設されたのは歪仔歪~竹林の約3kmのみでした。なお竹林~羅東駅の600mは1971年になって旅客営業を開始しています。しかし、天送埤~土場が度重なる風水害を受け、さらに輸送量が減少していたこともあり1979年に廃止になりました。
羅東林鉄の遺構は数か所が整備されて残っています。そのひとつが竹林駅周辺で、羅東林業文化園区として営林局の建物や貯木池などがまるまる保存されています。



いちばん目立つのが竹林駅の木造駅舎ですが、これは2008年に再建されたものです。オリジナルの駅舎の写真と見比べると、屋根の勾配などが異なっているようです。また、駅構内も線路が敷かれていますがこれも現役時代とは異なるもの。そもそも当然の話ではありますが、駅構内に木はありませんでした。客車もレプリカです。

その中で、恐らく現役時代のものと思われるのがこの客車の洗浄台です。そして、構内には4両の蒸気機関車が保存されています。

このうち、貯木地の脇に貨車と編成を組んでおかれているのが8号機。1941年、川崎車両製の15t機です。ただしどうも違和感がありおもちゃのような印象を持ってしまうのですが、それは前面附近のボイラー下の部分を埋めてしまったのが原因のようです。現役時代の写真とは異なっているので、保存後の改造なのでしょうか。



残りはもともと機関庫があったあたりに3両が並べて置かれています。いちばん上の9号機は8号機と同型車。こちらのほうは違和感がありませんね。
真ん中の11号機は、1958年台湾機械製の12.5t機でキャブの屋根のRが深く、また前方の窓が真円なのが印象的な車両です。
そしてもう1両の12号機は、現地での説明は1958年台湾機械製とありますが、資料によっては日車製と書いてあるものもあります。こちらは11号機に比べて屋根のRは一般的で前方の窓も矩形です。
続いて紹介するのが、羅東から15kmほど進んだところにある天送埤です。



ここは木造の駅舎が残っています。なお、羅東林鉄の各駅には旅客用のプラットホームは存在していませんでした。
2015年には周辺が鉄道公園として整備され、この地域における観光名所となっています。


この駅の周辺にはエンドレスのミニ軌道が敷設され、こんな車両(電動)が走っています。いちおう廃線跡は公道のようですが、それを遮断して公園にするあたり、日本では考えられないなあ・・・と思うところです。



駅舎以外では、転車台が保存されています。平野と山の境界に位置した当駅は運行上も重要な地点で、山側が不通になるとここで折り返し運転を行っていたようです。
ほかにもレンタサイクル置き場となっている倉庫などは鉄道があったころのモノではないかと思います。

この先、土場までは20km。土場には阿里山森林鉄道の中興号を転用した中華号などが保存されていますが、交通の便が至って不便であるため未踏です。
・2021年4月 撮影
・参考文献
「羅東森林鉄道 第2回」 古賀茂男 鉄道模型趣味339号(1976年9月)。