
日本の鉄道が開業から150年を迎え、幾つかその歴史に言及したものもあります。その中には当然、狭軌の採用は走行性や車両の大きさの面で禍根を残し改軌論そして新幹線へという、もはや定説となっている話が出てきます。しかし、軌間の拡幅は車両の安定性から高速運転には有利でしょうが、車両の大きさについては建築限界や曲線半径の変更を伴うので単純に変更はできません。
そして無視されがちな点ですが、路盤の強化・・・つまりは軸重の制限が解除されなければ、たとえば機関車の出力強化や貨物輸送の増強にはつながりません。欧州の主要路線では軸重22t程度まで許容されていますが、日本の在来線は碓氷峠を除き最も軸重制限の緩い1級線でも軸重18t(実際に運用されている電気機関車の軸重は16.8t)です。逆に狭軌であっても南アフリカでは軸重22~30tが許容されており、重たい電機が貨車と長大編成を組んで石炭や鉄鉱石を輸送している姿は日本の狭軌鉄道からは想像できないものだと思います。
日本が動力分散方式による旅客輸送が主体となったのは、この路線規格による結果であり、狭軌を標準軌にした程度では克服できなかったと思う次第です。
さて、国内には軸重18tを超える車両が走る1067mmゲージの路線があります。
それが福岡県北九州市の日本製鉄八幡製鉄所の専用線、通用「くろがね線」です。戸畑と八幡の2か所に別れた敷地を結ぶために1930年に開通した当線は、架線電圧は600Vで車両限界は国鉄~JRとほぼ変わらないようです。しかし、かつては銑鉄やスラグ、現在は半製品を輸送しており、重たい車両が走ることができます。線路そのものは意外と細く、そんなに重い車両が来るような気はしないのですが。


この路線で使用される電気機関車が1976年三菱重工製の85ED-1形 E8501~8504です。
形式から解るように85t機で、車体の大きさは国鉄のF級電機程度あります。しかし、4軸のため軸重は21.25tになります。沿線が住宅地化されている故の防音対策として下回りが完全に覆われている点、また機関車など非冷房が当然だった時代に運転室の上に国鉄AU13類似の冷房を搭載し、さらには前面上部に監視モニタ用のカメラを取り付けた姿は非常に強烈で、それなりに知られた存在だとは思います。
なお画像のE.8501はデッキに民生向けエアコンの室外機を搭載しています。屋上の冷房機は既に使われていないのかもしれません。
最も、これがどのように使われているのかまでは、あまり知られていなかったと思います。
貫通ブレーキがないことも理由なのか、列車は低速で本当に音もなくやってきます。実際、自転車で先回りすることも可能だとは思いますが、沿線は坂だらけなので体力に自信がある人向けですね。
ダイヤなどないため列車がいつやってくるのかもわからず、走行中の姿を見るためには忍耐が要求されます。私は1回目は空振りに終わり、2回目は4時間30分で2往復でした。さらに、沿線は2m以上の高さのフェンスで覆われ、最近は撤去された線路跡に太いパイプラインが設置されたため、なお撮りにくくなっています。


編成の最後部には緩急車として箱型ディーゼル機が連結されています(画像はD.704)。
自重70tの4軸機なので、こちらは軸重17.5tとやや軽めです。最近はこちらが先頭に立って運転することもあるようです。





貨車はフラットカーが多いようですが、積み荷のスラブやロールにあわせてその上は変化しているようです。車番は「フタ****」となっています。
フはフラットカーのことだと思いますが、タは何を表しているのでしょうか?※
そして、全体では一体何両ほどいるのか、いろいろ興味は尽きないところです。
なお、85ED-1形が入線する前に使われていた電機
E.601が、北九州市内の東田第一高炉史跡広場に保存されています。
・2022年5月 撮影
・参考文献
岩堀春夫「専用線の機関車10 製鉄所の機関車」 鉄道ファン 275号(1984年3月)
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