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by ひろ
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重要文化財 ナデ6141に思うこと
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01373227.jpg
 大宮の鉄道博物館に保存されている鉄道院ナデ6141は2017年9月15日に電車としてははじめて国の重要文化財(美術工芸品)に指定された。そのことはニュースとして記憶していたが、たいして気にも留めていなかった。しかし、先日ナデの鶴見臨港鉄道時代の諸元表を見ていたときに、はたしてこの電車の装備品で製造時のものはどれだけ残っているのか?と、ふと思った。

 ナデ6141は1914年3月にナデ6110形の1両として鉄道院新橋工場で製造され、同年8月にはデハ6285形6293に改番された。しかし大正末期の架線電圧昇圧(600→1200or1500V)には対応させずに1926年に廃車。その後、目黒蒲田電鉄デハ41→芝浦製作所専用線モハ41→鶴見臨港鉄道モハ202→モハ142→国鉄→日立電鉄モハ101→デワ101と譲渡・改番が繰り返された。

 1972年3月に日立電鉄から国鉄に返還され、復元工事を実施して1973年10月から大井工場で保存された。それから13年後の国鉄分割民営化を挟んだ時期、すなわち1986年11月~1987年7月に車体の改修工事を実施し同時に動態保存化している。この改修では、木造の車体は屋根と一部の柱を除いて総取り換えという半ば新造なみの大工事であった。そして電装品についても、600V用のものを1500Vで動かすため機器の対応が行われた。そのため何が残っているのか気になったのだが、調べてみると、そもそも現役の頃から各部品は交換されていた。
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01390929.jpg
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01391125.jpg
・大井工場にて 1996年8月

 まず主電動機であるが、製造時は英国デッカー(DK)製の13-D3 (50馬力=37kW)を4機装備していた。しかし、これは鶴見臨港鉄道在籍時の1935年に、当時同社の標準であった芝浦SE-119-I(端子電圧675V 75馬力=56.0kW)に交換されている(参考文献5による)。1987年の復元時もこれを装備している。絶縁再浸透は行ったものの1500Vで走らせることができた重要ポイントであると考える。なお、主回路構成は主電動機2個永久並列の2群を直並列制御していたが、1500Vでは先の絶縁の問題もあり4個永久直列としている。

 次にブレーキ関係であるが、国指定文化財等データベースに記載されているように、製造時はWH製の自動空気制動を備えていた。おそらくはAMMであると思われる。しかし、1987年の復元時に作成された図面(参考文献2)にはJ5Aとの記載があることからGE製の自動空気制動、つまりAVR(日本国内ではAMJ)であることがわかる。これへの変更時期が今一つ判らない。
 1914年製以降の院電はAVRを採用しており、また6141と同じく目蒲に譲渡された車両の後身である阪急90形もAVRである。しからば院電(省電)時代に改造されたと推測するのだが、確たる証拠がない。なお参考文献5では鶴見臨港ではSME(直通制動)で日立電鉄でAMJにされたとある。
 コンプレッサも芝浦製で750/1500Vの複電圧仕様であることから、RCP-78-Bと思われる。これは動態保存時に修理の上で再利用され現在も取り付けられている。一方で、空気溜めは腐食が進んでいたため、全てクモニ13の廃車発生品に置き換えられている。なお、この車両は元空気溜め管式(いわばAMJ-Rということになる)なので釣り合い空気だめがある。日立電鉄在籍時は台枠の外側に取り付けられていたが、現在はその内側にある。この改造は状況的に1973年の保存時だと思うがこれもよく解らない点である。
 ブレーキ弁は国鉄標準のME23で三菱製である。これもいつから取り付けられているのか不明である。電磁給排弁がないので電気接点は必要ないと思うのだが。

重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01574862.jpg
・コンプレッサ 芝浦RCP-78-B

重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01575349.jpg 
・台枠の内側にある釣り合い空気だめ
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01574265.jpg 
・ブレーキ弁のME23
 そして主制御器については、GEの電磁接触器式のMである。これは製造時から廃車時まで変わらなかった。ところが、1500Vでは使えないため新製した模様である。実際に1987年の修復前後で箱が変わっているのが確認できるし、現在も恐らくこれが取り付けられている。制御電源も架線からとるわけには行かないので、バッテリ式となり予備としてポータブルディーゼル発電機を用いた整流装置を新生して床下に取り付けている。
 一方でマスコンのGE製C-87Bは再利用した。これが数少ない製造時から残る電気機器になるかと思う。

重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_02052709.jpg 
・床下機器の様子がわかるように拡大したもの 中央の灰色の箱の右が主制御器と思われる。鉄道博物館では残念ながらこちら側はみることができない
1996年8月
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01574498.jpg 
・マスコンのC-87B GENERAL ELECTRICの文字が浮かび上がる
 そのほか、高速度遮断器もCB40になり機器箱は新製。またそのために制御空気だめも新たに取り付けている。このように床下に取り付ける機器が増えたが、主抵抗器も新品にしたことでスペースに余裕ができてそこに納めらている。現在、鉄道博物館ではこの主抵抗器等がある側面は見ることができるので、同館訪問の際には観察されたい。

重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01574555.jpg 
・主抵抗器は新品
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01574789.jpg 
・新設した制御空気だめの銘版には1987年1月製造とある
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_02052660.jpg
・元空気溜めやブレーキシリンダ―まわり。右側奥の箱にディーゼル発電機が納めらえていると思われる。鉄道博物館では残念ながらこちら側はみることができない
 1996年8月

 いろいろ見てきたが、電車というのは長年使われるものだからその間に装備は都度変わっていくものであるということ、そして動態で保存するということは、少なくとも電気や保安に関わる部分ではアップデートが続くということである。
それらを含めて保存されていると理解したいと思う。
重要文化財 ナデ6141に思うこと_e0030537_01575576.jpg
・大井工場にて 1996年8月

・鉄道博物館内および機器類の画像は全て2024年6月撮影

・参考文献
1.矢口弘志「E電のルーツ ナデ6141号の復元を終わって」鉄道ファン319号(1987年11月)
2.大熊孝夫「ナデ6141号の復元に寄せて」(1)・(2) 電車 387・388号(1987年11・12月) 交友社
3.三宅一郎「ナデ6141号復元記」(1)・(2) 電車 387・388号(1987年11・12月) 交友社
4.田邊幸夫「車両とともに30年」最終回 鉄道ジャーナル193号(1983年3月)
5.田尻弘行・阿部一紀・亀井秀夫「買収国電(社形の電車たち)」鉄道ピクトリアル2000年4月臨時増刊
6.芝浦製作所「芝浦電鉄型録 : KSA-80I」 1935年
7.日本国有鉄道編「鉄道技術発達史 6 (第4篇車両と機械 2) 復刻版」 クレス出版 1990年
8.電気車研究会編「国鉄電車発達史 1」 電気車研究会 1957年10月
9. 寺田貞夫「木製國電略史」 鉄道ピクトリアル


by hiro_hrkz | 2024-06-30 02:31 | 鉄道(旧形電車) | Comments(0)